INTERVIEW WITH TAKAO YAMASHITA FROM beauty : beast / JAPANESE

Beauty : Beast  x EMPTY R _ _ M

山下 隆生氏インタビュー

 

-PROFILE-

クリエイター 山下 隆生/ Takao Yamashita 

1966年 長崎市出身

1986年 第一回丸井デザイナーオーディション参加、独自の服作りを開始(87年)

1990年 ブランド『beauty & beast clothing』設立、デビューコレクションを発表

1994年 パリコレクションにてコレクションを発表(後に1995年にかけて3シーズンに渡りパリコレクションにてコレクション発表)

1995年 『beauty : beast ltd.,』(有限会社ビューティビースト)設立 (ヨーロッパでの開発デザインを日本国内向けへ展開)、表参道に1号店オープン

1996年 パリと平行して東京でのコレクション発表

2000年 beauty : beastの日本国内での活動休止を発表

日本映画(三池たかし監督作品『漂流街』にて衣装コラボレーション

株式会社ダーバンによる新ブランドnulv(ニューラブ)発表

仏ブランドrenoma PARIS(レノマパリ) 国内向けクリエイティブ・ディレクターに就任

伊スポーツブランFILA フィットネスデザイン並びにディレクション

2002年 アディダス社スポルト カジュアルスオフィシャル クリエーティブ・ディレクターに就任

2004年 ジャパニーズ デニム ブランドSOMET(ソメ)デザイン並びにディレクション

2006年 専門学校 x アパレルブランドNITF(新潟県)と共同開発

2008年 国内大手スポーツメーカーasics(アシックス)にてランニング アパレル クリエイティブ・ディレクターに就任

2015年 asicsグローバル ランニング アパレルライン”AYAMI collection”を展開

2009年 コレクションブランドDress Camp(ドレスキャンプ)クリエイティブ プロデューサーとしてリ・ブランディングに参加

2010年 asicsランニング、フィットネス、フットボール、A77アパレル ディレクション並びにデザイン担当

2012年 ONITSUKA TIGERインライン クリエーティブ・ディレクターに就任、ディレクション並びにデザイン担当

2013年 株式会社リステアSURFSIDE サーフウェア並びにビキニcollectionディレクション並びにデザイン担当

2014年 株式会社リステア 日本MADEデニムブランドHL ディレクション並びにデザイン担当

2015年 株式会社テーラーメードadidas Golf adipureカプセルコレクション デザイン

2016年 株式会社アダストリアBARNYARDSTORMとTAKAO YAMASHITAコラボレーション企画発表

2017年 株式会社三越伊勢丹オリジナルPB”LUGHA POCKET”とbeauty : beastコラボレーション子供服

2018年 高機能モードブランド DUMMY RUN スタート

2019年 オリジナルブランド beauty : beast リ ・ブランドプロジェクトチーム SAGAN PLANNING LLC設立

2020年   株式会社TaLi オリジナルブランド TAIGALIONA ブランディング クリエーティブ・ディレクターに就任

株式会社TaLi オリジナルブランド TAIGALIONA オフィシャルWEBサイト・ECサイトオープン

2021年 オリジナルブランドbeauty : beast 生誕30周年記念

オリジナルブランドbeauty : beast 国立新美術館『ファッション イン ジャパン1945-2020―流行と社会展』出展

コスパグループ株式会社、新規ハイブランド “Premiere”ライン クリエイティブディレクターに就任


オリジナルブランドの開発・デザイン・ディレクション、国内外のハイエンドブランド(メンズ、ウィメンズ、キッズ、スポーツなど)のデザイン・ディレクション及びカジュアル、ウェディング、フォーマルなどの多様なカテゴリーにおけるデザイン・ディレクション業務を多数手がける。シューズ、バッグといった服飾雑貨領域にも幅広いナレッジとキャリアを持ち、映画・音楽・インテリアなどファッション界に留まらず異業種とも積極的にコラボレーション活動を展開する。

 


beauty : beast
の始まった経緯を教えていただきたいです。

 10代の頃からファッションの持つスタイルに興味を持っていました。長崎の生まれで、学校は男性ばかりのミッションスクール。なので、登下校時にすれ違う異性に言葉を介さず自分を主張する道具としてスタイルはとても重要だったんです。言葉を介さずレターをもらったのも、声をかけてもらったのも丁度この頃でしたね。一方で、幼少期から言葉によるコミュニケーションの誤解が家庭内でも多く、言語に対して言い様のない不安と不審感を感じることがありました。だからこそ『デイペッシュモード』のEnjoy the Silenceという曲には深いシンパシーを感じたのかもしれないです。話が逸れましたが、ファッションへ興味を持った一番の理由は、“コミュニケーションのツールとして洋服”には可能性があった。言葉で言い表せない繊細な表現や沈黙を洋服なら可視化できると思えたんです。つまり、ファッションやスタイルが、人となりやアイデンティティを端的に表せる道具だと思ったんです。
 学生時代に、(丸井の新人発掘を目的としたデザイナー)オーディションへ参加した理由は、父親に対しての反抗心から。今思うと稚拙ですね(苦笑)。オーディション用に描いたイラストはテーラードジャケットのラペルが極端に大きく、袖は細長く伸びたスタイリング画。にも関わらず、(オーディションの)1次審査の合格通知が届いたんです。審査頂いた方々に純粋に自分の作品に興味を持って頂けたこと、そのイメージを具体的に洋服として見てみたいと思って頂けたことが何より嬉しかった。とは言え、2次審査のために洋服を作るのは正直消極的でした。なぜなら、当初の目的は取り敢えず果たすことができたから。この想いを友人に伝えたところ、「途中でやめるのは良くない、最後まで進めるべき」と背中を押され結果服を作ることに決めました。丸井さんからは(2次審査用に)素材を提供頂いたんですが、いかんせん洋服の作り方がさっぱり分からない(苦笑)。居ても立っても居られず素材を抱え反対の手にはデザイン画を持って、当時住んでいた大阪の街を歩きました。とりあえずミシンのある場所を探していた時に、ジーンズショップで一人の女性に出会うんです。彼女に事の顛末を説明すると「そもそも型紙がないと洋服は作れないよ」と言われまして。彼女からパタンナーを紹介してもらえることになったんです。そうこうする内になんとか型紙も出来上がって。改めて縫製のお願いをしに伺ったところ、彼女では縫えないと言われてしまいまして。それで今度は生地とパターンとイラストを持って隣町の洋服リフォームのお店を訪ねるんです。そうしたら、「面白そうな洋服だから縫ってみましょう!」と快諾頂くことができまして。とは言え、服が完成したのは審査前日とかなりギリギリでしたが(苦笑)。こんな風に、たった1枚のイラストレーションから洋服という造形物を作るのには膨大な時間がかかりましたが、沢山の人の協力と数えきれないほどのエール、愛情に恵まれました。そして何にも変えられない喜びと充実感、探究心が同時に芽生えました。それはもう、衝撃的な体験でしたね。この経験を経てもっと洋服を作りたいと思えたんです。多くの人との出会い、価値観の共有、分かち合う喜び。この瞬間から、集団として、ブランドとして展開していくbeauty : beastが始まったんです。

 

beauty : beastというブランド名の成り立ちをお聞かせください。

 ブランド名の由来は、フランスの民話『Beauty and the Beast』の比喩です。ファッションという手法で自分の想いを人へ伝え、同じ価値観を共有するために表現活動のタイトルとなるブランド名は慎重に考えました。もちろん、アウトラインを考えるのは私でも、服や靴を作るには多くの人たちの力が必要です。なので、自分の名前をブランド名にする考えは当初から無かった。多くのマエストロたちと同じ価値観を共有し作り上げるグループ。これを表す誰もが直感的に理解できる言葉の“響き”ってなんだろうと思っていた時に、幾つかの候補はあったんですが、たどり着いたのが<beauty : beast(ビューティビースト)>でした。誰もが子供の頃に読み聞かせてもらった古典文学。外見に囚われない、人間の持つ内なる心の美を連想させるネーミング。主人公であるベル(美女)と野獣となった王子の物語。この物語がネーミングのヒントになりました。奇しくもディズニーの同名映画が91年に公開されたのですが、ブランドがスタートしたのは1990年です。つまりこの映画と自分のブランド名が一緒なのは単なる偶然です(笑)。

 

beauty : beastのブランドコンセプトを教えていただきたいです。

  beauty : beastはbeautyとbeast、それぞれ別々の人間ではなく、一人の人間を現しています。自分のブランド名に“and the”は無く、ほぼワンワード。人の心の豊かさや優しさに魅かれる、それと同時に人との接触に不安もある。自分の正義とは裏腹に憎しみや恐れ、そして悲しみといった感情も共存している。ただ、いつの日かそんな複雑な心理を持っている自分すら受け入れて一人の人間として心身一体となる。そのための自分探しの旅(=人生)こそがブランドbeauty : beastの投げかけたいストーリーなんです。今回発売するTシャツにプリントした『25 to 1』のグラフィックはこの考えに基づいています。旧約聖書のマシューの章を参考に25種類の自分からたった一つの自分になる、これがベースです。beauty : beastのダブルコロンは、2つの単語を1つへ導くアイコンとして友人のサイモン・テイラー(※グラフィックアーティスト)によって提案されたものです。ロゴデザインも彼がデザインしたもので、30年前から今まで変わらずに使い続けています。“more than one culture of origin” は友人のスタイリスト、アダム・ハウが提案してくれたスローガン。“様々な文化の素晴らしい側面を取り込み表現すること”、を意味するセンテンスです。言語や文化が異なっても、その垣根を越えてファッションは共有できる、そんな意味合いですね。

 
beautybeastのデザインのインスピレーションはどこからでしょうか?

  インスピレーションは目に見える動物の造形から思いつくことが多いですね。ブランド名がビーストだからというワケでもないんですけれど(苦笑)。例えば、足って真っ直ぐになってないですよね? 構造的に。足を伸ばして、って言われないと伸ばさないと思うんです。ということは本来自然な形に曲がってるんですよ、人間の足って。であれば最初から足が曲がっているパンツの方が楽でしょ、っていうのが発想の原点。でも、市場で売っているのは真っ直ぐなレッグのパンツばかり。それってなんでだろう? って思ったのが物作りの着想の原点ですね。あと、洋服はコミュニケーションツールとしての可能性を持っていると思っています。言葉で上手く言い表せないニュアンス、繊細な表現、沈黙の発言をファッションなら可能にできると思っています。その人のファッションやスタイルって自然と人となりを表していますから。『スタイルを読み解く』、それができるのってファッションの醍醐味だと思います。以前、私がファッションスクールの若いクリエイターへ自分の考えるファッション感について説明した時に、1着1着のアイテムは単語で、アイテムを組み合わせる(スタイリングする)ことでセンテンスが生まれる。コレクションの様にスタイルの集合とそれで満たされた空間は1枚のページや一章節を作る、と説明しました。つまり、コレクションやショーを積み重ねることで1冊の本になっていくということ。ブランド名はその本のタイトルです。大切なのは何を作るかではなく、何を伝えたいのか。従って、私が受けるインスピレーションは人々の抱える悩みを、洋服を着ることで解消したいという想いからきているものが多いかもしれません。

 

2000年になぜブランドを休止されたのでしょうか?

 2000年当時、販売含めスタッフは44人でした。欧州のメゾンスタイルを真似たブランド活動をしていたんですが、2000年に(アップル社が発売した)iMacとユニクロ、この2つが登場したことで大きな時代の変化を予感しました。例えて言うなら、こだわりのお寿司屋さんよりも回転寿司を腹一杯食べたい消費者心理が一気に蔓延していくんじゃないか、ということです。そんな風に世の中が傾いていくんじゃないかな、と漠然と思えてしまったたんですね。なので、当時の体制のままでは次の時代に進めないと判断して全てのコレクション活動と媒体への露出を一旦やめることにしたんです。

 

beauty : beastの活動休止以降はどのような活動をされていたのでしょうか?

 山下 隆生個人として、クリエイティブ・ディレクター契約を幾つかのブランドと結び、活動を再開しました。2000年にショーの参加を休止して以降、自分にとってマスプロダクションのメリット・デメリットが勉強できる良い機会になりました。アディダス、フィラ、レノマ パリ、などとのお仕事です。更に、スポーツテクノロジーに関してのノウハウを得たのはアシックスとのお仕事。端的に、素晴らしい経験ができました。2000年初頭、当時スポーツ系ブランドもファッションの居場所を探っているように思えましたから。

  

2019年になぜブランドを再始動されたのでしょうか?

 シンプルにお伝えすると、自分が想い浮かべていた新しい組織作りが整い始めたと言うこと。パタンナー、テキスタイル開発、マーケティング、そして販売と言ったそれぞれのプロフェッショナルの人たちが有機的に構築するネットワーク。そもそもbeauty : beastは、どこの企業にも組織にも属さずインディペンデントな存在でした。自分自身もどこの(ファッション)スクールにも属してなかった。なので、今はとても自由な(プロジェクト)チームが創れています。そして、ニューノーマルな現代にSNSをはじめとするデジタルコンテンツの成熟も相まって、今なお国内外を問わずこのブランドを応援してくれるファンが多数存在している事実を知ったことのも復活を大いに後押ししてくれました。

 

 一番のお気に入りのアイテムを教えてください?

 コレ、と言い切れないのが正直な本音です(笑)。先にもお伝えしましたが、1着1着のアイテムは単語であり、そのアイテムをスタイリングすることでセンテンスが生まれます。私たちが創り出すコレクションアイテムは、言葉で言うところの“モディファイヤー”(※変化・変更の意味)が大半です。なので、その人のファッションやスタイルが、その人間の人となりを表すことを踏まえるとどのアイテムも甲乙つけがたくなる。各アイテムの組み合わせがその人の個性を引き出すことを考えると不要なものがなくなるんですね。なので、どれも大切というのが本音です。

 

ラビットパック、アニメのキャラクターを洋服に落とし込んだシリーズ、デジタル迷彩 などの人気アイテムはどのように生まれたのでしょうか?

 ラビットパックは、beauty : beastのコンセプトをダイレクトに表現した商品です。うさぎ型キャラクター“ダークナイト”は1998年にファッションブランドから発信するキャラクターとして構想しました。当時、若いモデルたちが病気で亡くなるケースが多く、そんなこともあってか、永遠に失われることのない存在を創出したい、という想いに駆られるようになりました。ピンナップでよく見かけるマリリン・モンローの様に、永遠に失われる事のない美の象徴をアニメーションやゲームに登場する“キャラクター”、特にヒロインで表現できないかを考えたんです。ダークナイトのコレクションを構想する期間に私は父を亡くしました。大掛かりなコレクションを組み立てる中、実家の長崎と東京を何度も往復し、身直な人の死と直面すること、人の死を受け入れることができない反動。この心理状態が、未来はたまた死後の世界までをも想像するようにさせたんです。その想いが後のハイパードライブというコレクションへと繋がるのですが、そんな未来の衣装を考える中心にダークナイト(うさぎ)がいたんです。

デジタル迷彩は湾岸戦争(1990年)を経た1996 年に生まれました。報道で目にしたこの戦争の光景と、当時TVやVHSなどで描写を覆い隠すために使用されたモザイクの柄にヒントを得て誕生したのがデジタルカモフラージュです。これは1997 年の春夏コレクション “カオティック ロマンス” で発表しました。通常、ミリタリーウェアでは迷彩柄にモザイクのかかったものはなく、珍しい柄だったので当時のメディアで“デジタル迷彩”と命名されたんです。コレクション発表後、コンセプトとともに多方面のメディアで取り上げられ、一躍ブランドを代表するアイコンとして有名になりました。表出すると都合の悪い真実にモザイクをかけ覆い隠すメディアへのシニカルな想いと、情報過多な社会でいかにして自衛の精神を養うことが大切かを訴える、2つのメッセージを込めています。

 

 

 

 

 

ブランドをやる上で大切にしていらっしゃることはございますか?

 重力と建築学の2点を、物作りする際に意識している点ですかね。洋服は建築学と共通することが多く、如何にして重力と共存していくかがポイントとなります。重力をどのように迎え入れていくか、緻密に計算することから物作りをスタートすることが多いですね。シルエットを操作する上で、重力はある局面では障害となりますが、美しいドレープを創造してくれるパートナーにもなります。私にとって衣服は最小限のシェルターであり、自身を象徴する建造物でもあります。支柱となる骨格と皮膚に覆われた肉体は、空間を形成するインテリアとエクステリアの関係性に似ていると思っています。

 

 

国内外でbeauty : beastのアーカイブが盛り上がっておりますが、どのように感じますでしょうか?

 これまでbeauty : beastを好きでいてくれた顧客様が洋服を大切に保管して下さったおかげで、コンディションの良いピースが現存していることの裏返しですね、本当にありがたい話です。ピュアな物のみが生き残り、価値が破壊されず生き残ったbeauty : beastのアーカイブが、ロスやニューヨークを中心に海外の若者たちへ良い印象で伝わったのかな、と思っています。私は長年スローファッションを求めてきました。かつてクリス(トファー・ネメス)ともよく話していたのが、ファッションの持つ消費サイクルのペースにブレーキをどうしたらかけることができるのか、でした。価値あるものを早いスピードで消費することへのアンチテーゼがスローファッションの意味です。かつての日本には着物を大切に受け継いできた様に、モノを次世代へ大切に繋いでいく文化がありました。図らずもこれが海外の若者の間で広がりをみせたのは素晴らしいことですね。

 

アーカイブカルチャーについていかがお考えでしょうか??

  脱ファストファッションからくる、副反応の様なモノではないでしょうか。リサイクル、リユースといった環境にも配慮したアップサイクルの発想から自然発生的に生まれたとも思えます。

 

影響を受けたもの/人物は何でしょうか?

影響を受けたのは友人でありクリエイターでもある、アダム・ハウ(※スタイリスト、http://www.adamhowe.com)、サイモン・テイラー(グラフィックアーティスト、http://connects.co.jp/creator/87)、ノバート・ショーナー(フォトグラファー、https://models.com/people/norbert-schoerner)、クリストファー・ネメス(ファッションデザイナー、https://christophernemeth.co)らです。彼らのことを心から尊敬していますし、インスピレーションという刺激をもらえる数少ない友人たちです。残念なことにクリスは亡くなってしまいましたが、彼のDNAは今も継承されていると思っています。

 

尊敬する方はいらっしゃいますか?

 サルバドール・ダリ(スペイン出身の画家)、マン・レイ(アメリカ出身の画家・彫刻家・写真家)、シャルル・ボードレール(フランス出身の詩人・芸術評論家)。

 

好きなブランド / デザイナーはございますか?

 好きなデザイナーは、同世代でもある丸山 敬太さん、三原 康裕さん、荒川 眞一郎さん、中川 正博さん、岡庭 智明さんは戦友にも似た同世代の方々です。今でもとても懇意にしてもらっています。

 

現在の日本のファッションについて、いかがお考えでしょうか?

 今見えているのは、モニター越しにSNSでブランドアピールをするパブリシティ・ファッションに思えます。小さな画面でアピールするために分かりやすいロゴや柄が重要視されているようにも思うんです。これは、ファッション界だけの問題ではなくネットワークメディアにユーザーである我々が依存しているために起きたごく自然な状況です。つまり、SNSが主流となった現代でファッションの存在意義をより一層明確にするフェーズがそこまで差し迫っているのではないでしょうか。その場所、その空間でしか出会えない物の価値と、SNSによって何時でも何処でも手に入る物の価値。そのどちらにも魅力はあるのですがSNSでは人間の持つ視聴覚のみでのアピールです。五感に訴えるライブの様な表現がブティック本来の魅力であれば、その情報量はSNSより遥かに大きいものではないかと今改めて思うんです。本来のファッションの役割を思い出さないといけない時に来ているのかもしれないですね。メディアは日々成長しているのに、コンテンツや表現に適したインフラはまだ追いついていません。デジタルとフィジカルのハイブリッドな表現方法の確立ができれば、ファッションを今以上に楽しめる様になるのかもしれませんね。

 

 今回復刻するアイテムについてお聞かせください。

 beauty : beast設立30週年を記念し、歴代のクリエイションの中でも代表的なファクターを抽出し、現代的にモディファイしたカプセルコレクションに仕上がっています。5月に発表した“キープアウト”トラックセットアップは、思いの外あっと言う間に無くなってしまい、その後沢山のファンの方々から再生産のリクエストも頂戴しました。今回追加したパーブルカラー、前回人気を博したターコイズカラーも少量ですが登場します。デジタルカモフラージュも先にお伝えしたbeauty : beastにとって重要なアイコンです。このシリーズにもコレクター様がいらっしゃる様で、今回は新たなアイテムでデジタルカモのアイテム提案をしました。”シレーヌ”のコレクションは、アニメカルチャーをファッションとして融合させた伝説的なモチーフです。当時の刺繍技術をそのまま再現すると同時に現代にあったシルエットで再構築しました。ダークナイトコレクションを代表するラビットパックも型紙の構造自体を再構築し、当時の空気感を残しつつ、安定的に座れたり長い耳の形状がまっすぐに立つ様に設計したりと、微細な点までアップデートを施しています。そして1点1点が職人による手作りです。すべてが自身作なので、是非手に取っていただければ幸いです。

 

これからの展望を教えてください。

 完全復活を期に、プレステージなレベルの提案を一人でも多くのファッションを愛する人たちへお届したいと思います。